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高松地方裁判所 昭和46年(ワ)99号 判決 1975年3月04日

原告

合田虎市

ほか一名

被告

藤原敬二

主文

一  被告は

1  原告合田虎市に対し、七六六万六、〇六三円及び内七〇六万六、〇六三円に対する昭和四六年六月一〇日から、残り六〇万円に対する同五〇年三月五日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を

2  原告近藤ユキに対し、七六万八、三八七円及び内六九万八、三八七円に対する昭和四六年六月一〇日から、残り七万円に対する同五〇年三月五日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  原告らの、その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告ら両名の、その余は被告の各負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は

(一) 原告合田虎市に対し、一、六二一万六、六一三円及び内一、一五三万六、三九四円に対する昭和四六年六月一〇日から、内三八八万〇、二一九円に対する同四九年二月二〇日から、残り八〇万円に対する判決言渡の日の翌日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を

(二) 原告近藤ユキに対し、三三八万六、二五九円及び内三〇八万六、二五九円に対する昭和四六年六月一〇日から、残り三〇万円に対する判決言渡の日の翌日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

別紙「当事者の主張」記載のとおりである。

第三証拠関係〔略〕

理由

第一  書証の形式的証拠力については次のとおりである。

一  次の書証は、いずれも各項目末尾括弧内に掲げた証拠によつて、真正に成立したものと認められる。〔証拠略〕

二  その余の書証については、甲号証、乙号証ともいずれもその成立について当事者間に争いがない。

第二  昭和四三年五月六日午後九時一〇分ころ、香川県大川郡白鳥町湊川、湊川大橋東詰国道一一号線上の交差点内において、被告の運転する加害車両が中央区分線を越えて対向進行路線内に進入し、同路線を進行中の原告合田(明治四二年三月五日生、当時五九年)運転、原告近藤(大正八年二月一九日生、当時四九年)同乗中の被害車両と衝突し、原告らが負傷したこと、被告が加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

従つて、被告は加害車両の運行供用者として、自動車損害賠償保険法(以下「自賠法」と略称する。)三条により、原告らが本件事故によつて被つた人的損害を賠償する義務がある。

第三  被告は、本件事故によつて生じた原告らの損害については、既に示談契約が成立し、これに基づく一切の履行を終了しているから、原告らの有した損害賠償請求権は、右示談契約によつて消滅していると主張し、原告らと被告との間に、被告主張の各示談契約が成立したことは、当事者間に争いがない。

原告らは右示談契約の効力を争い、示談契約は要素の錯誤又は解除条件の成就により無効である旨主張し損害賠償請求権消滅の効果を争つている。

しかし、当裁判所は、示談契約がなされた場合に示談契約で定めた金額をこえる損害賠償請求権をすべて放棄したものと解すべきか否かは問題であり、示談契約によつていかなる範囲の損害賠償請求権が放棄されたものとみるかは示談契約の効果の及ぶ範囲すなわち示談契約の拘束力をいかに解するかにかかるものと思われ、したがつて示談契約後に判明した損害についてその賠償を求めるには、必ずしも原告ら主張のように示談契約の全部を無効としなければならないものではないと解されるから冒頭に、示談契約の拘束力と付加的に示談契約を無効とすべきか否かについての、当裁判所の見解を示しておこう。

当裁判所も、基本的には最高裁昭和四三年三月一五日第二小法廷判決(民集二二巻三号五八七頁)の見解に組みするものであり、少なくとも、示談当時当事者が予想した損害については、当該示談において定めた金額をこえる被害者の賠償請求権の放棄の効力を否定することはできないが、後遺症をはじめとする示談当時予想しえなかつた症状が現われたり、症状が意外に重く著しく悪化したような場合には、かような予想外の損害については、その賠償請求権をも放棄したものと解せられるような特段の事情が認められない限り、当該示談においては増大した予想外の損害についてまでは定めてなく、したがつてその賠償請求権の放棄もないものと解するのが、当事者の合理的意思に合致するものと考える。

示談後予想外の損害が発生した場合において、もし原告ら主張のように、錯誤により示談契約が無効となるという理論に従えば、当該示談契約を全て無効としたうえ、改めて損害賠償額を算定し直さなければならないこととなり、示談当時予想されていた損害についても、示談の効力、特に示談金額を左右する結果となり、また解除条件が成就し示談契約が無効となるという理論に従つても、示談当時、当事者間にかような解除条件を付する旨の黙示の合意がなされていたものと解するのは、余りに当事者の意思を離れ、いささか牽強附会の感を免れず、いずれも妥当な見解とはいえない。

(なお、以上のような、示談契約についての当裁判所の見解は、原告らの主張するところではないが、「示談契約の拘束力」をいかに解すべきかという法律行為の解釈、すなわち法律問題に属するものであるから、弁論主義には違反しないものと考える。)

そこで、以上の見地から、本件示談においては、何が示談当時予想された損害であつたか、また示談後における予想外の損害発生の有無及び予想外の損害につき賠償請求権を放棄したと解すべき特段の事情の存否について、検討していくことにする。

一  原告合田についてみてみよう。

1  同原告の負傷の内容、治療経過、後遺症状等

(一) 〔証拠略〕を総合すると、次の事実を認めることができる。

(1) 負傷の内容、治療経過

イ 宇田外科医院(本件事故直後の応急措置)

43・5・6(本件事故当日)

治療費 一万四、七三八円

転送料(救急車使用) 五、〇〇〇円

ロ 三宅病院(前記宇田外科で入院を要する旨診断されたので、直ちに自宅に近い、高松市内の上記病院に転医)

症状 右膝蓋骨骨折、第四中足骨骨折、右膝関節断裂、化膿性膝関節炎(外傷性)

入院 二三五日(43・5・6~43・12・26、家族付添看護)

通院 少なくとも一七五日(43・12・27~44・8・12、タクシー利用)

治療費 八三万七、二二六円

ハ 岡山大学医学部附属病院(前記三宅病院に通院、加療を受けていたが、症状が一向に好転しないので、大学病院で精密検査を受けるため、上記病院に通院)

44・8・11(三宅病院に通院中、タクシー利用)

治療費 四、五四四円

診断 右附属病院の外、後記広瀬整形外科等二、三の病院でも同様の診察を受けたが、いずれも入院、手術の必要性ありと診断された。

ニ 広瀬整形外科(前記のとおり、入院、手術を勧められたので、自宅に近い上記病院に転医)

症状 右化膿性膝関節炎膿瘍、混合感染瘻孔、下腿骨骨髄炎、大腿膿瘍

入院 一〇六日(44・8・14~44・11・27、家族付添看護)

治療費 一九万六、七五九円(入院前の診察費も含む)

ホ 高松赤十字病院(前記広瀬整形外科で治療を受けたが、症状は悪化する一方で膝の腫れもひどくなつたので、知人の紹介により上記病院に転医)

症状 右膝関節化膿性関節炎、右大腿・下腿骨骨髄炎、右股関節脱臼

入院 四一日(44・11・27~45・1・6、家族付添看護)

治療費 九万一、七八七円

ヘ マオカ整形外科医院(前記高松赤十字病院での担当医師が独立・開業、上記医院を開設したので、引き続き同一医師の継続治療を受けるため転医)

症状 右大腿骨・脛骨骨髄炎、瘻孔形成、右股関節病的脱臼

入院 二三七日(45・1・6~45・8・30、家族付添看護)

通院 四五日(45・8・31~45・11・4、タクシー利用)

治療費 五〇万一、五六五円

ト 大阪市立大学医学部附属病院(前記マオカ整形外科に通院、加療を受けていたが、依然として松葉杖なしでの歩行が困難なため、高松市民病院で診察を受けたところ、上記病院を紹介され転医)

症状 右下腿骨骨髄炎、下肢関節運動制限、右股関節・膝関節骨性強直

入院 三〇〇日(45・11・5~46・8・31、家族付添看護)

通院 少なくとも九日(46・9・23~48・3・15、航空機、タクシー利用)

治療費 少なくとも一七七万八、四九二円(入院中の分一七七万七、五九二円、通院中の分少なくとも九〇〇円)

チ 高松市民病院(前記病院では、骨髄炎の手術が完了し、あとは右手術後の瘻孔の治療のみを残すだけとなり、以後は自宅に近い上記病院で治療を受けるよう勧められたが、矯正・投錯術を強く希望したところ、右瘻孔の完治後でなければ施術は不可能なため、瘻孔の治療は上記病院で受けるとともに、月一回程度前記病院に通院、経過観察を受けることになつた。)

症状 右大腿骨・下腿骨骨髄炎、右股関節・膝関節強直、右足関節拘縮

通院 少なくとも一三一日(46・9・6~47・9・18、47・9・19~48・4・末の通院、正確な加療日数は不明)

治療費 一一万〇、六一七円

(2) 現在の症状

イ 骨髄炎は、大阪市立大学医学部附属病院における手術によつて、一応病巣部分は切除されたが、術後の創処置の間に再発し、薬物投与等によつて現在は鎮静の状態を保つているが、なお相当期間の経過観察が必要で、完治の見通しは立つていない。

ロ 後遺症状としては、自賠法施行令別表五級五号に該当する右股関節骨性強直(外施四五度、外転二〇度、屈伸零度)、右膝関節骨性強直(屈曲位一六〇度)、右足尖足(一一〇度)の機能障害が残つており、骨髄炎完治後、右大腿骨の矯正・授励手術を行なうことによつて、日常生活は少しは楽になるものの、全体としては、一下肢の機能が全廃した状態にとどまる。

ハ 現在のところ、脳血栓のために、前記高松市民病院に入院、加療中(昭和四八年五月ころ入院)であり、そのため骨随炎の再手術等は一時見合わせている。〔証拠略〕

(二) そこで本件事故と、前記認定の負傷後の症状(特に昭和四三年八月下旬ころからの膝関節炎の悪化、その後の骨随炎の罹患)及び後遺症状との、因果関係の有無について検討する。

(1) 原告合田は本件事故により、右膝蓋骨骨折、右膝関節断裂、第四中足骨骨折、化膿性膝関節炎(外傷性)の各障害を受けたこと、広瀬整形外科以降の各医院において、それぞれ右化膿性膝関節炎膿腫、混合感染瘻孔、下腿骨骨髄炎(広瀬整形外科)、右膝関節化膿性関節炎、右大腿骨・下腿骨骨髄炎、右股関節脱臼(高松赤十字病院)、大腿骨・脛骨骨髄炎、瘻孔形成、右股関節病的脱臼(マオカ整形外科病院)、右下腿骨骨髄炎・右股関節・膝関節骨性強直(大阪市立大学医学部附属病院)と診断されたこと、現在後遺症状として右股関節・膝関節骨性強直、尖足が残つていること、以上の事実は前記認定のとおりであり、この事実に、「昭和四三年八月下旬ころからの原告合田の膝関節炎の急激な悪化は、関節断裂等によつて関節内に侵入した細菌が、当初は洗浄、抗生物質の授与等によつて活動を抑えられていたが、次第に薬物耐性が強くなるにつれて活発化したものと考えられる、同原告には受傷の部位、程度から膝関節の硬直による機能障害は残ると考えていた」との三宅証言、「原告合田には初診時において右下腿上部に三ケ所瘻孔が認められたが、これは相当以前から存した骨随炎によるものと考えられる、右瘻孔に基づいて病巣掻爬手術を行つた」との浅田証言と、医学上の一般的知識((1)骨髄炎の感染経路としては、血行性の外に、周囲組織の炎症の波及と開放骨折(外放性)とがある。(2)関節骨性強直は、当該関節に比較的近い部分が化膿性関節炎、骨髄炎に罹患した場合、あるいは強い打撲、骨折があつた場合に引き起される。(3)尖足は、足関節部付近に骨折、あるいは脛骨に骨髄炎がある場合に生じるとされている。)とを総合すると、前記認定の治療過程において、被害者自身に不摂生等何らかの落度があつたこと、医師の治療方法に欠陥があつたこと、その他本件事故による負傷と離れて独立に前記認定の関節炎、骨髄炎の症状、関節強直等を惹起せしめるような事情が存したことを認めるに足る資料がない本件においては、前記認定の症状、後遺症状は本件事故による負傷に起因し、通常発展しうべき経過をたどつて発生した症病であり、本件事故と相当因果関係にあるものと認めるのが相当である。

(2) 原告合田が昭和四三年八月二〇日ころ銭湯に入浴したところ、そのころから関節炎が急激に悪化したことは後記認定(2、(一)、(5))のとおりであり、この事実によれば、入浴後の関節炎の悪化は、入浴による細菌感染も一因をなしているのではないかとの疑いがもたれないではない。しかし受傷部位である右膝の腫膿と躍動は、入浴前の同月一四日から増大のきざしが表われていたことも後記認定(2、(一)、(5))のとおりであるうえ、右入浴も担当医師の許可を得ていたものであり、しかも当時は入院による外科的治療はほぼ終了し、通院、加療の話もでていた状態であつたこともまた後述のとおりである(2、(一)、(1)、(2)、(3)、(5))から、結局は右入浴の件も細菌感染経路の一つの可能性として考慮されることは別として、前記事故による負傷と離れて前記の症病を生じさせる独立の原因となり、あるいは事故による負傷から異常な発展過程をたどつて前記症病を発生させる原因となつたものとは認められない。

したがつて銭湯への入浴それ自体は、決して好ましいものではないとしても、前記認定の法的因果関係に何らの消長をきたすものではない。

2  本件示談契約成立前後の事情

(一) 被告主張の示談契約が成立するに至つた前後の事情について検討するに、右示談契約が成立した事実と〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 三宅病院入院当初の、原告合田の症状は、膝関節断裂等のため重態で、起居も困難であつたが、次第に好転し、昭和四三年七月中旬ころには、病室内で松葉杖を使用して歩行訓練を始めるようになり、同年八月上旬ころになると極めて良好で、担当医師三宅俊三も一時帰宅をすすめる程になり、原告合田本人及びその家族も退院が間近いものと考えるに至つた。

(2) もつとも、担当医師の一時帰宅のすすめは、症状も一応固定し、外科的治療もほぼ終了したので、後は相当期間の通院、加療のみで足りるとの医師の判断により、患者に回復への希望を与えて、機能訓練に積極的、意欲的に取り組ませて、少しでも社会生活に馴致していくための自力更生の機会を与えようとの配慮に基づくものであつて、完全に負傷前の健康状態にまで回復したことを意味するものではなく、担当医師は受傷の部位、程度等からみて関節硬直の後遺障害によつて、相当程度の機能障害は残るものと考えていた。

(3) 原告合田は、担当医師から一時帰宅をすすめられ、また症状も良好なところから、ほぼ治療の見通しもついたものとして、知人の中岡勲に被告との示談の交渉を依頼(同原告の希望は、治療費の外に約一〇〇万円)し、これを受けて中岡は被告と種々折衝した結果、昭和四三年八月一〇日、原告宅において(同原告は示談のため一時帰宅)、右中岡立合いのもとに、原告合田、被告間に

(イ) 治療費は、昭和四三年八月一〇日までの分は被告の、その後は原告合田の各負担とする。

(ロ) 被告は原告合田に、休業損害及び慰藉料として、八五万円を支払う。

(ハ) 原告合田は被告に対し、今後一切請求をしない。

旨の示談契約が成立し、そのころ右内容を記載した示談書(〔証拠略〕)に双方それぞれ押印した。

(4) 右示談契約締結にあたつて、原告合田は、自己の現在の症状からみて退院も間近く、退院後の通院、加療もそれ程長期にわたることもなく、従つて治療費も大したことはないと考えており、また被告も、原告同様、近々退院し、その後の退院、加療についても、期間、費用いずれも大したことはないと考えていた。

(5) ところが、昭和四三年八月一四日ころから、原告合田は右膝部分(受傷部位)が腫れ出し、同月二〇日ころ医師の許可のもとに銭湯で入浴したところから急速に前記患部が悪化し同月二二日ころになると膝蓋骨の躍動がひどく、痛みを訴えるようになり、患部から膿汁が検出され、膝関節炎が悪化して、以後前記認定のような治療経過をたどることになつた。

(6) なお原告合田は、示談成立後、自賠責保険から、その後遺障害が自賠法施行令別表八級に該当と認定されて後遺障害保険金一一〇万円の支給を受け、後に五級に認定替えがなされ、これに伴い差額七〇万円が支給されている(この後遺障害保険金が支払われたことは争いがない。)。

(7) 示談成立後の関節炎の急激な悪化、骨髄炎への発展については、原告合田、被告両当事者は勿論のこと、担当医師三宅俊三もこれを予想していなかつた。

(二) 担当医師三宅俊三が、示談成立前に、原告合田に対し、相当程度の膝関節機能障害が残ることを告げた事実を認めるに足る証拠はなく、また本件示談契約において、当事者双方が自賠責保険金についてどの程度予測をし、どのような取り扱いをしたかは、当事者双方何らの主張、立証がなく、全く不明である。

3  示談成立後の症状変化等に対する予測可能性

以上認定の、原告合田の負傷の内容、治療経過、後遺症状、本件示談成立前後の事情に照らし、原告合田が本件示談当時、示談成立後の症状変化、後遺症等について、いかなる程度まで予測し、あるいは予測可能性があつたかについて考えてみよう。

(一) 関節炎の急激な悪化、骨髄炎への発展については、当事者双方は勿論のこと、担当医師も予測しえなかつたことは、前記認定のとおりであり、また前記認定のとおり、示談成立後長期間(現在まで五年余)の療養をよぎなくされたうえ、現在に至るも完治せず、多額の治療費を負担する結果となつた等の事実をも併せて考えれば、当事者双方とも、かような結果の発生については全く予測可能性がなかつたものと推認できる。

(二) 股関節・膝関節骨性強直、尖足の後遺症状については、前記認定のとおり、担当医師は相当程度の膝関節硬直による機能障害を予測しており、また示談成立後、自賠責保険金から八級相当の後遺障害保険金を受領していること、また負傷の部位、程度等から客観的に観察すると、原告合田において、或る程度の後遺障害が残ることを予測し、あるいは予測しえたのではないかとの疑いをいれる余地が全くない訳ではない。

しかし、担当医師が右後遺障害を予測し、あるいは予測しえたとしても、そのことを同原告又はその家族に告知していたことを窺わせる資料はなく、また前記認定のとおり、示談当時同原告の負傷の治ゆ、回復の状況は極めて良く、しかも、示談契約においては後遺障害について全く触れるところがないままに、休業損害、慰藉料及び示談当日までの治療費について取り決めをし、その余の損害陪償請求権について極めて安易にこれを放棄することを約しているのであつて、これらの事情から察すれば、当事者双方とも、示談の当時後遺障害が残存するであろうことを全く予想せず、また当時の事情においてはその予想をもちえなかつたものと理解するのが相当である。

4  示談の拘束力

そうすると、原告合田、被告双方とも、当時の事情において示談成立後もなお必要とされる入・通院、加療に要する相当期間内の収入減、治療関係費等についての損害は当然に予想し、この分の損害賠償請求権は右示談契約において放棄したものと解するのが相当である(右にいう相当期間がどの程度であるかについては、これを端的に認めるに足る証拠がないので、結局示談当時の原告の症状、その後の治療経過等本件審理に現われた一切の事情を考慮して、入院期間は昭和四三年八月末日ころまで、通院期間はその後一ケ月程度と解さざるを得ない。)が、その余の損害については、当事者双方とも予測しえなかつたものであり、かつ、かような損害についてその賠償請求権を放棄したものと解せられるような特段の事情については本件の全資料によるもこれをうかがうことができない。

したがつて、右示談契約は予想外の右損害についての賠償請求権には及ばないものと解するのが相当であり、その点の賠償請求権は右示談契約によつても放棄されていないものというべきである。

5  まとめ

以上によれば、原告合田は本件示談契約により、昭和四三年九月末日までの、示談当時の症状が順調に好転しながら経過したであろう場合に必要とされる入・通院の治療費、休業損害及び慰藉料についてはこれを放棄しておりその賠償を請求することはできないが、示談後右同日までの、症状が予想外に悪化したことにより生じた治療費、休業損害及び慰藉料と同年一〇月一日以降のすべての損害については、被告に賠償を求めうることになる。

二  引き続いて、原告近藤について検討しよう。

1  原告近藤の負傷の内容、治療経過、後遺症状等

(一) 〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 受傷の内容、治療経過

イ 宇田外科医院(本件事故直後の応急措置)

43・5・6(本件事件直後)

治療費 不明(但し被告が支払ずみ)

ロ 三宅病院(前記宇田外科病院で応急措置を受けた後、原告合田に付添い、上記病院に赴き、診察を受けたが特に異常を感じなかつたので、一旦帰宅したところ、間もなく手足のしびれ等を感じたため、翌朝(43・5・7)来院し、入院の要ありと診断された。)

症状 頭部・右手打撲傷、右膝部擦過傷、鞭打症

入院 七五日(43・5・7~43・7・22)

通院 少なくとも六二日(43・7・26~44・4・2、タクシー利用)

治療費 三九万〇、四四八円(入院分三三万五、六八〇円、通院分五万四、七六八円。内入院分は被告が支払ずみ)

ハ 伊達病院(前記病院に通院、加療を受けるも症状が好転しないので、上記病院に転医)

症状 頭部外傷後遺症(頭痛、眩暈、耳鳴、四肢のしびれ感)

通院 正確な日数不明(44・4・10~45・1・8、タクシー利用)

治療費 二万九、一三三円

ニ マオカ整形外科医院(上記医院に入院中の原告合田を見舞い、同原告からすすめられて前記病院から転医)

症状 偏頭痛

通院 日数不明(45・1・12~45・9・7、タクシー利用)

治療費 不明

ホ 高松第一病院

症状 頸部捻挫遺症

通院 一日(45・9・9、タクシー利用)

入院 六三日(45・9・11~45・11・12)

治療費 八万一、五一九円(通院分二、〇〇二円、入院分七万九、五一七円)

ヘ 大阪市立大学医学部附属病院(上記病院に入院中の原告合田を見舞つたところ、同原告からすすめられて、上記病院に通院)

症状 外傷性頸部症候郡、急性偏頭痛、急性鼻咽頭炎

通院 少なくとも一一日(45・12・24~46・3・4)

治療費 四万四、一二七円

ト 昭和四六年一〇月ころから引続き、指圧療法を受け(当初は月一〇回位、同四七年当時は月四~五回位、同四八年以降は月二回位)、現在に至つている。

(2) 現在の症状

自覚症状として、頭痛、視力障害等を訴えているが、日常の家事労働(独身)には殆んど支障がない。

((1)原告近藤は、三宅病院に二一四日間通院したと主張する。同病院に殆んど毎日のように通院したとの同原告本人尋問の結果は三宅証言に照らし措信しえないところ、同証言によれば、昭和四三年七月二六日から同年一二月三一日まで五九日間通院したことが、甲第13号証によれば同四四年一月には通院していないが、同年二月、三月にはそれぞれ少なくとも一日は通院したことが、甲第12号証の3によれば同年四月二日までに少なくとも一日通院したことが、それぞれ認められるので、結局同病院への通院日数は六二日と認めざるを得ない。(2)伊達病院に一五〇日間通院した旨主張するが、通院日数を明確にする資料はない。(3)マオカ整形外科病院についての通院期間一五〇日、治療費二万六、六七一円との主張は、原告近藤本人尋問の結果中には、これに沿うような供述があるが、右供述は代理人が甲第12号証の4を示しながら、「治療日数は一二二日、治療費は二万六、六七一円になるんですが、云々」と質問したのに対し、「はい」と答えているにすぎず、しかも右書証には治療日数、治療費いずれについても記載がなく、従つて右供述をたやすく措信し難いところ、他にこれを認めるに足る証拠はない。(4)大阪市立大学医学部附属病院の通院期間は一四日と主張するが、甲第43号証の2ないし11によれば、最長一七日、最短一一日通院したことが認められるので、控え目に算定して右病院への通院は一一日ということになる。甲第43号証の1は、いわゆる一括領収書であるから、前掲各証拠に照らし措信しえない。(5)右病院の治療費(46・3・11~46・4・30)三万円との主張も、これに沿う原告近藤本人尋問の結果はたやすく措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。)

(二) 本件事故と、前記認定の負傷後の症状、後遺症状との間の因果関係の有無について考えてみよう。

前記認定の事実に、〔証拠略〕を総合すると、前記認定の治療過程は、本件事故による鞭打症状に伴う頭痛及びこれから派生した症状についてのものであることが認められ(鞭打症状から頭痛、眩暈、耳鳴りは勿論のこと、四肢のしびれ、視力障害、咽頭部の異常等の症候が現われることは、医学上の一般知識である)、他に本件事故を離れて右症状を発生せしめるに足る原因が存したことをうかがわしめる事情について主張、立証がない本件では、本件事故と前記認定の症状、後遺症状との間に相当因果関係を認めるのが、相当である。

2  示談契約成立前後の事情

(一) 被告主張の示談契約が成立するにいたつた前後の事情を検討するに、右示談契約が成立した事実と乙第2号証、三宅証言、原告近藤、被告各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 本件事故直後、宇田外科医院で脳波検査を受けた(その結果は不明)後、特に異常を感じなかつたので、そのまま原告合田に付添つて三宅病院に赴き、診察を受けたが、やはり異常が認められなかつたので、帰宅した。

(2) 帰宅後、頭頂部の痛み、不快感を感じて、翌朝(43・5・7)再び三宅病院に赴き、診察の結果鞭打症と診断されて入院した。入院後三日目位から頭痛がひどくなり、手足にも軽い痛み(しばらくして治癒)が出てきた。そして昭和四三年六月中旬ころになると、頭痛もなくなつてきたので歩行訓練をはじめたが、同月下旬からは再び頭痛を訴えるようになり、同月二七日に背髄穿刺をしてみると、脳圧亢進症状が認められた。

(3) 昭和四三年七月一日、原告近藤と被告との間で

イ 被告は示談成立の日までの治療費を負担する

ロ その後は、被告は原告近藤に対し、治療費及び一部生活費の補助として毎月一万五、〇〇〇円を、原告近藤が全治するまで支払う

ハ 被告は原告近藤に対し、休業損害及び慰藉料として三〇万円を支払う

旨の示談契約が成立し、右条項の書面化に際しては、ロのとおり全治するまで治療費及び生活費として毎月一万五、〇〇〇円を支払うことから、イ、ロを併せた意味で「治療費は全治するまで被告が負担する」旨の文言として、示談書〔証拠略〕を作成し、双方それぞれ押印した。なお右示談は、原告合田の女婚故小川誠美が、原告近藤の代理人として、原告合田をも交えて被告と折衝した結果成立したもので、示談書には右小川も立会人として押印した。

(4) 右示談成立当時の原告近藤の症状は、軽い頭痛、微熱、全身倦怠が認められ、しびれ感を除くと、入院当初と余り変らない状態であつた。

(5) その後、昭和四三年七月一三日ころには、新たに飛蚊症状を訴えるようになつたが、主たる症状である頭痛、眩暈等は次第になくなり、原告近藤も退院を希望したところから、担当医師三宅俊三は、今後も症状はそれ程悪化することもないと判断し、退院を許可したので、原告近藤は同月二二日退院した。

(6) 原告近藤の頭痛は、退院後も一向に好転せず、以後前記認定のような治療経過をたどつている。

(7) 原告近藤、被告双方とも、原告近藤の症状が鞭打症であることは十分認識しており、従つて相当期間右症状に伴う後遺症状が続くことは予想していた(そのため、前記示談書の作成に際し、休業損害、慰藉料三〇万円の項に、「後遺障害保障費を含む」の文言を一旦記載したのにこの点の合意ができず、これを抹消している。)。

(8) 右示談に基づく治療費及び生活費は、その後原告近藤の要求により、昭和四四年一〇月から毎月二万円に増額された(但し同四五年一二月分までで打切られている。)。

(二) ところで、原告近藤の本件事故により受けた傷害(鞭打症)はいつ固定したか、またその程度はどの位かについては、これを的確に把握する証拠がないところ、前記認定の治療経過、現在の症状等に照らすと、大阪市立大学医学部附属病院での治療を終えて多少の期間を経過したころ、すなわち昭和四六年三月末日ころをもつてその外科的療法を終り、その後は心理的療法(三宅証言によれば、鞭打症状には心因的なものの及ぼす影響を無視しえないことが認められる。)と、原告近藤本人自身の社会的復帰への努力とによつて労働能力の回復が期待しうる段階に至つたものと認めてよいであろう。そして右時点(46・3・末)で自賠法施行令別表一二級一二号に該当する後遺症状を有するに至つたものとみてよいのである。

3  示談成立後の症状に対する予想可能性

以上認定の、原告近藤の負傷の内容、治療経過、現在の症状、示談成立前後の事情等に照らして考えてみると、原告近藤の症状は示談成立の前後を通じ、一貫して鞭打症にみられる頭痛を中心とするものであつて、全く異質的な症状は認められず、示談成立後において多少の変動があるとはいえ、徐々に好転しており、結局示談後のかような症状の持続は、期間の点を除き当事者双方の予想可能性の範囲内にあつたものと認めざるをえない。

しかしながら、右症状の持続期間については、当事者双方とも、原告近藤の症状は一定の相当期間を経過することによつて、治癒するに至るものと考えていたにすぎず、本件口頭弁論終結時(示談成立後六年余)においてもなお存続するものとまで予想し、あるいは予想可能性があつたものとは到底認められない。

4  示談の拘束力

そうすると、原告近藤、被告双方とも、示談成立後もなお相当の期間にわたり頭痛等の後遺障害が残り、その間の入・通院、加療にともなう治療費及び収入減による財産上の損害並びに精神上の損害が生じることを予想していたものであり、この分の損害賠償請求権のうち、治療費はともかくとして、収入減による財産上の損害と精神上の損害に対する賠償請求権は本件示談契約に定めた休業損害及び慰藉料の額をこえる分につき示談契約により放棄したものと解するのが相当である(本件示談契約においては示談契約の条項に定めた金額をこえるその余の請求権を放棄する旨の明示の約定は定められていないが、示談契約の性質上、予想された損害賠償請求権のうち、示談契約の条項に定めた金額をこえる分については特に反対に解すべき事情が認められない限りその余の請求権を放棄したものと解すべきである。)。

そして、本件において、当事者双方が予想したであろう治療に必要な相当の期間は、示談当時における同原告の症状、示談契約の内容、特に、原告近藤が休業損害及び慰藉料として、三〇万円を受領している事実(前記認定の、同原告の本件事故による負傷後、本件示談成立時までの治療期間、治療内容、及び負傷の部位、程度から考えると、右三〇万円という金額は、本件事故による負傷後、示談成立時までの期間内に限定した休業損害及び慰藉料としてのみ支払われたものとみるには、高額すぎる。)、示談後の症状の推移、ことに被告が昭和四五年一二月まで毎月一万五、〇〇〇円ないし二万円ずつ治療費の支払いを継続してきた実情等の事情を併せて考察すると示談後一年間すなわち昭和四四年六月末日までと解してよいであろう。

したがつて、傷害の治療及び後遺症にもとづく休業損害と慰藉料については、治療及び後遺症が事故後前記同日まで存続するという事実関係を基礎とする限り、示談契約により賠償請求権が放棄されたというべきであるが、その後もさらに治療を要し、後遺症が存続するという事実関係を基礎とする限り、示談契約における当事者双方の予想をこえるものとして示談契約の拘束力は及ばず、賠償請求権の放棄はないというべきである。治療費(治療にともなう諸雑費も)は、前記示談契約の条項の趣旨と示談契約の経緯に照し、示談当時当事者双方により予想された範囲のものについても全額被告が賠償支払いをすることにしたものと解されるから、治療費(右同)の損害賠償請求権については、予想された範囲の内外を問わず本件示談契約によつて何らの影響も受けないものと考えられる。

5  まとめ

以上によれば、原告近藤は、本件示談契約により昭和四四年六月末日までの治療のため及び後遺障害のために休業を余儀なくされた損害と治療や後遺障害にもとづく慰藉料については、賠償を請求することはできない(もとより、これらについては本件示談契約に定めた金額の限度においては請求権が存在したが、それもすでに支払いずみであることは当事者間に争いがない。)が、同年七月一日以降のそれによる休業損害と慰藉料及び事故後の全期間にわたる治療費損害のうち未回復の損害については、被告に賠償を求めうることになる。

第四  そこで、本件示談契約によつて消滅していない、原告らの各損害について検討することにしよう。

一  原告合田(計算関係は別紙計算書(三)記載のとおりである。)

1  治療費 二〇七万七、五八〇円

(一) 宇田外科医院(含運搬費)については既に本件示談契約によつて解決ずみである。

(二) 三宅病院 二八万〇、八九三円

前記認定のとおり、原告合田の病状は、示談の当時当事者双方が予想したであろうとおりに順調に経過したとすれば昭和四三年八月末日まで入院し、同年九月末日まで通院を必要とし、それに要する治療費は、本件示談契約によつて解決ずみであるところ、実際には、原告合田は同年八月下旬から病状が急に悪化し同年一二月下旬まで入院をよぎなくされた。したがつて、同病院における治療費の中には右解決ずみの治療費も含まれているところ、その額がいくばくに達するかはこれを明確には算定しえない。

しかし、〔証拠略〕によると昭和四三年五月六日から同年八月三一日までの入院治療費として五五万六、三三三円を要しており、また昭和四四年一月以降一ケ月当りの通院治療費として最も多いときで九、二五一円、少ないときは三、三二八円(但し、通院の最終の月である昭和四四年八月は通院日数が他の月と比較して過少であるので除く。)であることが認られ、他方、被告は本件示談契約に基づき、昭和四三年八月一〇日までの入院治療費として五三万六、四五六円を支払つており(この事実は当事者間に争いがない)、さらに三宅証言によれば、昭和四三年八月一〇日以降同月末日までに、細菌培養、カナマイの投与等の治療が行われたにすぎないことが認められる。

そうすると、五五万六、三三三円から五三万六、四五六円を差し引いた一万九、八七七円は同年八月一〇日(示談日)から同月末日までの現実の入院治療費であつて、これには、病状が予想どおり順調に経過したであろう場合に要する入院治療費のほか、病状悪化にともなう入院治療費の増加分も含まれているとみてもよいわけである。

他方、病状が順調に経過したであろう場合に要する同年九月分の通院治療費は、現実に通院治療した昭和四四年一月以降の毎月の治療費程度とみてよいと思われるから、以上の金額を比較考慮すれば、昭和四三年九月中に要したであろう通院治療費は同年八月一〇日から同月末日までの前記現実の治療費中に占める病状悪化にともなう入院治療費の増加分にほぼ見合うものと考えてよい。

結局、本件示談により解決ずみの治療費額は昭和四三年五月六日から同年八月末日までの現実の治療費五五万六、三三三円と同額であると解してよいであろう。

そうすると、同病院における治療費中、右示談契約によつて放棄されていない金額は二八万〇、八九三円(前記第三、1、(一)、(1) ロで認定の八三万七、二二六円から前記五五万六、三三三円を差し引いた残額)となる。

(三) 岡山大学医学部附属病院

四、五四四円(前記認定のとおり)

(四) 広瀬整形外科医院

一九万六、七五九円(前記認定のとおり)

(五) 高松赤十字病院

九万一、七八七円(前記認定のとおり)

(六) マオカ整形外科医院

五〇万一、五六五円(前記認定のとおり)

(七) 大阪市立大学医学部附属病院

八九万一、四一五円

(1) 前記認定のとおり、入院中に要した治療費は一七七万七、五九二円であるところ、〔証拠略〕を総合すると、右病院(国民健康保険療養取扱機関ではない)での治療には国民健康保険の使用が認められ、後日、療養費として保険者負担分七割相当額の返戻があつたことが推認される。ところで、〔証拠略〕によれば、右治療費中には国民健康保険適用外の上級ベツト専用料五〇万九、七〇〇円(昭和四五年一一月五日から同四六年三月三一日)、弾力包帯代六四〇円、合計五一万〇、三四〇円が含まれているが、右上級ベツト及び弾力包帯の使用が、本件治療に特に不必要、不相当であつたことをうかがわしめるような事情について、被告は特段の主張、立証をしないから、本件治療との相当性を認めてよいであろう。そうすると一七七万七、五九二円のうち国民健康保険適用外の分が五一万〇、三四〇円、適用分が一二六万七、二五二円となり、適用分中七割は保険者負担として返戻を受けているから、自己負担分は三割、三八万〇、一七五円(円未満切捨)となる。結局入院中の分としては、八九万〇、五一五円となる。

(2) 通院中の分は前記認定のとおり九〇〇円であるから、同病院分としては、合計八九万一、四一五円となる。

(八) 高松市民病院

一一万〇、六一七円(前記認定のとおり)

2 付添看護費 八〇万一、〇〇〇円

前記認定の負傷の部位、程度、治療過程、証人合田百合子の証言によれば、原告合田は、各病院における後記の入院期間中起居歩行が困難なため付添看護を要したこと、右付添看護には同原告の二女合田百合子、三女合田千恵子があたつていたことが認められる。そして前記認定の、同原告の負傷の内容、程度、治療過程に照らし、右付添看護につき、付添看護人の食事代をも含めて一日あたり一、〇〇〇円を本件事故による損害として認めるのが相当である。

(一) 三宅病院 一一万七、〇〇〇円

前記認定のとおり、昭和四三年八月末日までの分は本件示談契約によつて解決ずみであるから、同年九月一日から同年一二月二六日まで一一七日分を請求しうることとなる。

(二) 広瀬整形外科医院

一〇万六、〇〇〇円(前記認定のとおり、入院日数は一〇六日)

(三) 高松赤十字病院

四万一、〇〇〇円(前記認定のとおり、入院日数は四一日)

(四) マナカ整形外科医院

二三万七、〇〇〇円(前記認定のとおり、入院日数は二三七日)

(五) 大阪市立大学医学部附属病院

三〇万円(前記認定のとおり、入院日数は三〇〇日であるところ、甲第36、第38、第40号証の各3によれば、一二日間外泊していることが認められるが、負傷の部位、程度(関節強直による機能障害)に照らし、外泊期間をも含めて全入院日数中付添看護の要ありと認める。)

3 入院経費 一六万〇、二〇〇円

前記認定の、負傷の部位、程度、治療過程に照らすと、入院中一日当り二〇〇円を下らない経費を要したことが推認される。原告合田は右金額以上を支出した旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

(一) 三宅病院 二万三、四〇〇円(一一七日分)

(二) 広瀬整形外科医院 二万一、二〇〇円(一〇六日分)

(三) 高松赤十字病院 八、二〇〇円(四一日分)

(四) マオカ整形外科医院 四万七、四〇〇円(二三七日分)

(五) 大阪市立大学附属病院 六万円(三〇〇日分)

4 入・通院交通費及び通院経費 一四万三、四五六円

先ず、タクシー利用の点については、前記認定の負傷の部位・程度に照らし必要性が認められる。航空機利用の点については、後記認定のとおり。通院経費については、通院交通費以外にいかなる内容、費目が含まれるかについて、具体的な主張、立証がないから、通院に伴い、なにがしかの支出をよぎなくされたことは推認されるとしても、これを算定することはできず、後記の慰藉料算定の際に考慮することとする。

(一) 三宅病院 三万〇、二〇〇円(一五一日分)

前記説明のとおり、本件示談契約によつて通院一ケ月間の交通費は解決ずみ(示談当時予想されたとおりに推移すれば、昭和四三年九月の一ケ月間は通院する筈であつたが現実には同年九月中は病状悪化して入院を余儀なくされたため通院せず、退院が同年一二月二六日まで遅延されて、その後通院することとなつた。したがつて現実の通院期間中一ケ月分の通院交通費については示談によつて解決ずみとするのが相当である。)であるから請求しうる期間は前記認定の通院期間一七五日から一ケ月平均の通院日数二四日(三宅証言により昭和四四年一月から七月まで合計一六六日通院していることが認められる。)を差し引いた一五一日となる。そして〔証拠略〕によれば一日当り通院費(タクシー利用)として二〇〇円を要したことが認められる。

(二) 岡山大学医学部附属病院 八、〇五六円

甲第16号証の3によれば、右病院への通院(タクシー貸切、フエリー利用)に一万二、六〇〇円を要した記載があるけれども前記認定のとおり、右病院の治療費は四、五四四円であり、他方同原告は治療費及び交通費として一万二、六〇〇円と主張しているから、交通費は原告主張の金額から右治療費を差し引いた八、〇五六円と認定するに止める。

(三) マオカ整形外科医院 九、〇〇〇円(四五日分)

前記認定のとおり通院日数は四五日であり、甲第22号証の2ないし4によれば同病院への通院(タクシー利用)に一日当り二〇〇円を要したことが認められる。

(四) 大阪市立大学医学部附属病院

七万円(入院のため一日分、通院九日分)

右病院への入・通院へ航空機を利用した点については、これを利用しなければならない特段の緊急性についての主張、立証はないが、前記認定の負傷の部位、程度に照らし、付添人の介助を受けても通常の交通機関(連絡船・列車)の乗り継ぎがかなり困難であることが推認されるうえ、その存在、成立、内容が当裁判所に顕著な国鉄旅客運賃表によつて認められる通常の交通機関(連絡船・列車)を利用した場合の交通費と比べても、航空運賃がこれを加害者に負担させることが不衡平となるほどに不相当に高額なものとまでは言えないから、航空機利用の相当性を認めてよいであろう。そうして〔証拠略〕を総合すると、入院時の付添介助人一名の分を含め、タクシー、航空機利用による入・通院交通費として一日当り少なくとも七、〇〇〇円(入院については本人及び付添介助人分片道、通院については本人分のみ往復)を要したことが認められる。そうすると前記認定のとおり入院のため一日、通院のため九日それぞれ右病院に高松市内の自宅から赴いているから、入・通院交通費は七万円となる。

(五) 高松市民病院 二万六、二〇〇円(一三一日分)

前記認定のとおり、通院期間は一三一日のところ、〔証拠略〕によれば、右通院にタクシーを利用し、一日当り二〇〇円を要したことが認められる。

5 休業損害及び労働能力喪失による損害

(一) 〔証拠略〕によれば、原告合田は本件事故当時露天商を営み、一ケ月六万円を下らない収入を得ていたことが認められ、これに反する証人有馬弘の証言(月二〇万円を下らないという)は前掲証拠に照らし措信しえない。

(二) 前記認定のとおり、原告合田は骨髄炎が完治しないうちに、脳血栓に罹り、現在は主として脳血栓の治療を受けているため、症状固定時を的確には把握しえないが、股関節、膝関節の骨性強直による機能障害は、骨髄炎完治後の手術によつても、殆んど変わらないというのである。

したがつて、股関節、膝関節の骨性強直による一下肢の機能全廃という限りでは遅くとも、高松市民病院に骨髄炎の治療のみで通院していた昭和四八年四月末日ころには症状が固定していたものということができよう。そして本件事故による原告合田の逸失利益は、同人が右同日までは骨髄炎の治療のために入院して現実に稼働しえなかつたのであるから、稼働不能による休業損害として、また同年五月以降は、骨性強直による関節機能障害の後遺症により労働能力が制限(一部喪失)されることによる損害として、それぞれ算定してよいであろう。

(三) 先ず休業損害の点について考えてみると、前記判断のとおり、本件示談契約によつて、昭和四三年九月末日までの分は解決ずみである(厳密には示談解決にかかる休業損害は同月中通院することを基礎とするものであつて、病状悪化にともない入院を余儀なくされたことを基礎とする実際の休業損害と理論上一致するわけではない。しかし、通院することを基礎とするといつても、前述のとおり一ケ月二四日程度の通院と見込まれるのであり、その時期が退院につぐ翌月であることをも考慮すれば、同月中は全く労働に服し得ないものとしてよく、その休業損害は入院による休業損害と金額的には同じである。したがつて同月中生じた実際の休業損害のすべてが本件示談により解決されたものとみられるであろう。)から被告に請求しうるのは同年一〇月一日から同四八年四月末日まで五五ケ月分となる。そして中間利息をホフマン式算出法(月ごと複式)によつて年五分の割合で控除した、昭和四三年五月六日(本件事故発生の日)現在の現価額は二九一万〇、九六六円(円未満切捨)となる。

(四) 次いで、労働能力喪失による損害についてみてみる。

(1) 前記認定のとおり、原申合田の後遺障害(股関節・膝関節骨性強直・尖足)は自賠法施行令別表五級五号に該当し、これによる労働能力の喪失は、昭和三二年七月二日付基発第五五一号労働省労働基準局長発各都道府県労働基準局長通達(労災保険法第二〇条の規定の解釈について)によれば、七九%とされている。〔証拠略〕によれば、露天商には身体障害者も少なくないこと。通常の労働と異なりかなり高令まで稼働することが可能であることが、またその存在、成立、内容が当裁判所に顕著である厚生省大臣官房統計調査部発表第一二回生命表によれば六四才の男子(弁論の全趣旨により原告合田は昭和四八年五月一日現在満六四才である)の平均余命は一二・五一年であることがそれぞれ認められる。

(2) 以上の事実に照らすと、原告合田は昭和四八年五月一日以降も少なくとも五年間(六〇ケ月)は露天商として稼働が可能であり、かつその間の労働能力の喪失の程度は期間中を平均して六〇%とみるのが相当である。

(3) そうすると、昭和四八年五月一日から同五三年四月末日まで六〇ケ月における、労働能力六〇%喪失による損害を、中間利息をホフマン式算出法(月ごと複式)によつて年五分の割合で控除し、昭和四三年五月六日現在の現価を求めると一五七万二、八六一円(円未満切捨)となる。

6 慰藉料

前記認定のとおり、原告合田は本件事故により長期間の入・通院をよぎなくされたうえ、現在に至るも骨髄炎は完治せず、しかも一下肢の機能が全廃という後遺障害が残つていること、すでに本件示談により慰藉料として一部金額の支払いがあつたこと、前述の通院雑費の金額不詳等本件審理にあらわれた一切の事情を総合すると、原告合田が本件事故によつて被つた精神的損害は二〇〇万円の支払いをもつて慰藉されるべきものと認めるのが相当である。

7 損害の填補

〔証拠略〕によれば被告が昭和四五年八月ころ治療費として八〇万円を原告合田に支払つたことが認められ、また原告合田が自賠責保険から後遺障害保険金として合計一八〇万円受領していることは当事者間に争いがないところ、これらの合計二六〇万円は本件示談契約によつて解決ずみのものではないから、損害の填補として前記の損害額から控除することとする。

8 弁護士費用

原告合田が、原告ら訴訟代理人に対して本件訴訟の追行を委任したことは当事者間に争いがない。〔証拠略〕よれば、原告合田は、原告ら訴訟代理人に対して着手金として二〇万円を支払い、成功報酬として六〇万円を支払う旨約したことが認められる。右の事実に、本件訴訟の経過、認容額を考慮すると、原告合田の弁護士費用中、事故と相当因果関係のある範囲は着手金、成功報酬を含めて六〇万円と認めるのが相当である。

従つて、原告合田は弁護士費用として六〇万円の損害を被つたことになる。

9 まとめ(なお、後記判断のとおり、過失相殺は認められない。)

以上をまとめると、原告合田の損害は次のとおりである。

(一) 治療費 二〇七万七、五八〇円

(二) 付添看護費 八〇万一、〇〇〇円

(三) 入院雑費 一六万〇、二〇〇円

(四) 入・通院交通費 一四万三、四五六円

(五) 休業損害 二九一万〇、九六六円

(六) 労働能力喪失による損害 一五七万二、八六一円

(七) 慰藉料 二〇〇万円

(八) 控除分 二六〇万円

(九) 弁護士費用 六〇万円

(一〇) 合計 七六六万六、〇六三円

二 原告近藤(計算関係は別紙計算書(四)記載のとおりである。)

1 治療費 二〇万九、五四七円

(一) 三宅病院 五万四、七六八円(前記認定のとおり、但し、通院治療費、ほかに入院治療費三三万五、六八〇円を要したが、これは被告により支払いずみである。)

(二) 伊達病院 二万九、一三三円(前記認定のとおり)

(三) 高松第一病院 八万一、五一九円(前記認定のとおり)

(四) 大阪市立大学医学部附属病院 四万四、一二七円(前記認定のとおり)

(五) 以上のほか宇田外科医院、マオカ整形外科医院において治療したことは前記認定のとおりであるが、その治療費については、前者の場合主張立証がなく、後者の場合も立証がない。

2 入院雑費 一万六、八〇〇円

前記認定のとおり、同原告は三宅病院に七五日間、高松第一病院に六三日間それぞれ入院したので、そのうち原告請求の三宅病院二一日間、高松第一病院六三日間、合計八四日間につき、その症状、治療過程に照らし、一日当り二〇〇円の割合により雑費の支出を要したものと認められる。

3 入・通院交通費及び通院雑費 一万四、八〇〇円

入・通院については現今の交通事情と同原告の負傷の部位、程度に照らし、タクシー利用の必要性が肯定され、また、同原告の肩書住所地から通院のためのタクシー代は弁論の全趣旨に照らし一日につき二〇〇円を相当と認める。

通院雑費についてはこれを慰藉料算定において考慮すべきことは原告合田の場合と同様である。

(一) 三宅病院 一万二、四〇〇円

(前記認定のとおり六二日間、これは原告主張の期間内のもののみである。一日につき二〇〇円)

(二) 高松第一病院 二〇〇円

(前記認定のとおり一日 一日につき二〇〇円)

(三) 大阪市立大学医学部附属病院 二、二〇〇円

(前記認定のとおり一一日間 一日につき二〇〇円)

(四) 以上のほか伊達病院において昭和四四年四月一〇日から昭和四五年一月八日まで、マオカ整形外科医院において昭和四五年一月一二日から同年九月七日まで、それぞれ九ケ月間ずつ通院治療したことは前記認定のとおりであるが、その間何日通院したかの実日数を明らかにする資料がないので、その通院交通費の金額を確定することはできない。この点は通院雑費と同様、慰藉料の算定において考慮する。

4 休業損害及び労働能力喪失による損害

(一) 〔証拠略〕を総合すると、本件事故当時原告近藤は原告合田と一諸に露天商を営んでおり、縁日、祭典等がなく店を出さないときには、内職として和裁の賃仕事をしていたことが認められる。

そして、本件事故当時の原告近藤の収入をうかがわしめる証拠としては証人有馬弘の証言に露天商として一ケ月五万円位の収入を得ていたかのような部分があるが推測の域を出ない証言であつて採用できない。外には、和裁縫師として働き一ケ月二万円を下らない収入があつた旨の同原告本人の供述しかないところ、その存在、成立、内容が当裁判所に顕著な、労働省大臣官房労働統計調査部発表「昭和四三年度賃金構造基本調査結果報告書」によれば、昭和四三年度における四九才の女子の平均賃金は一ケ月三万三、七〇〇円であることが認められるから、同原告の一ケ月の収入は、露天商手伝い及び和裁縫による収入を含めて主張どおり、二万円と認めてよいであろう。

(二) 〔証拠略〕によれば、原告近藤は本件事故後は露天商、和裁両方ともしておらず、現在は家事労働のみに従事していることが認められる。そして、原告近藤の頭痛等による鞭打後遺障害は、大阪市立大学医学部附属病院での治療を終えた昭和四六年三月末日ころに固定したことは、前記認定のとおりである。

(三) そして、昭和四四年六月末日までの休業損害及び労働能力喪失による損害は本件示談契約によつて既に解決ずみであること、前記説示のとおりであるから、原告近藤は昭和四四年七月一日以降について、休業損害及び労働能力の喪失による損害を求めうることになる。

(1) 先ず、休業損害の点について考えてみる。

前記認定の治療経過に〔証拠略〕を総合すると、原告近藤は、本件事故により被つた鞭打後遺障害が固定した、昭和四六年三月末日までは、右後遺障害のために、露天商及び内職(和裁賃仕事)に従事しえなかつたものと認められる。

そこで、右休業のやむなきに至つた期間(昭和四四年七月一日から、同四六年三月末日までの二一ケ月間)の損害を、中間利息をホフマン式算出法(月毎複式)によつて年五分の割合で控除し、同四三年五月六日(本件事故当日)現在の現価で求めると、三八万〇、五七六円となる。

(2) 次に、労働能力喪失による損害について検討する。

(イ) 前記認定のとおり、原告近藤の後遺障害は、自賠法施行令(二条)別表一二級一二号に該当し、これによる労働能力の喪失は、前記労働省労働基準局長通達によれば一四%とされている。また前記第一二回生命表によれば、五一才の女子(弁論の全趣旨により原告近藤は昭和四四年七月一日現在満五一才である。)の平均余命は二五・九八年であることが認められる。

(ロ) 右(イ)の事実に、〔証拠略〕によつて認められる露天商の実情を併せて考えると、原告近藤は、昭和四四年七月一日以降少なくとも一〇年位は露天商(及び内職として和裁の賃仕事)として稼働しうるところ、前記認定の後遺症状等に照らすと、本件口頭弁論終結(昭和四九年一〇月一日)後も、少なくとも二年間位は右後遺症状によつて、労働能力の低下があるものとみてよいであろう。

そして、前記認定の診療経過、現在の症状、原告近藤の年令等の諸事情を総合すると、原告近藤の労働能力の喪失の割合は、症状固定後すなわち昭和四六年四月一日から同四九年三月末日までは一四%、同年四月一日から同五一年九月末日までは一〇%とみるのが相当である。

(ハ) そうすると、右認定の労働能力喪失の割合による昭和四六年四月一日から同五一年九月末日までの損害を、中間利息をホフマン式算出法(月ごと複式)によつて年五分の割合で控除し、昭和四三年五月六日(本件事故当日)現在の現価で求めると一二万六、六六四円(円未満切捨)となる。

5 慰藉料

前記認定の治療経過、後遺症状、すでに本件示談により慰藉料として一部金額の支払いがなされたこと、そのほか前述の通院交通費、雑費の金額不詳等本件審理にあらわれた一切の事情を総合すると、原告近藤が本件事故によつて被つた精神的損害は四〇万円の支払いをもつて慰藉されるべきものと認めるのが相当である。

6 損害の填補

被告が原告近藤に対し、昭和四五年一二月末日までに七五万円支払つていることは当事者間に争いがないところ、被告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を併せると、そのうち三〇万円の支払いは本件示談契約に基く休業損害及び慰藉料についての支払いであることが認められ、本件示談によつて解決ずみの損害に対するものであるから、控除の対象とはならない。

残り四五万円は治療費のほか一部生活費の補助の趣旨を含めて支払われたものであり、生活費の補助は休業損害ないしは労働能力喪失に対する補償の実質を有するものであるから、右四五万円は損害額から控除すべきである。

7 弁護士費用

原告近藤が、原告ら訴訟代理人に対して本件訴訟の追行を委任したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告近藤は、原告ら訴訟代理人に対して着手金として一〇万円を支払い、成功報酬として六〇万円を支払う旨約したことが認められる。右の事実に、本件訴訟の経過、認容額を考慮すると、原告近藤の弁護士費用は着手金、成功報酬を含めて七万円と認めるのが相当である。

従つて、原告近藤は弁護士費用として七万円の損害を被つたことになる。

8 まとめ(なお、後記認定のとおり、過失相殺は認められない。)

以上をまとめると、原告近藤の損害は次のとおりである。

(一) 治療費 二〇万九、五四七円

(二) 入院雑費 一万六、八〇〇円

(三) 入・通院交通費 一万四、八〇〇円

(四) 休業損害及び労働能力喪失による損害 五〇万七、二四〇円

(五) 慰藉料 四〇万円

(六) 損害の填補 四五万円

(七) 弁護士費用 七万円

(八) 合計 七六万八、三八七円

第五  被告は、本件事故の発生には原告合田の過失も寄与しており、これを原告側の過失として、損害賠償額の算定に際して斟酌すべきであると主張するが、原告合田にいかなる過失があり、それがどのように本件事故の発生に寄与したのかについては、被告において何ら主張、立証するところがないうえ、本件全証拠によるも、原告合田の過失をうかがわしめるような事情は何ら認められない。

被告の過失相殺の主張は排斥を免れない。

第六  以上により、原告らの被告に対する本訴請求は、原告合田については、七六六万六、〇六三円及び内弁護士費用を除く七〇六万六、〇六三円に対する損害発生後である昭和四六年六月一〇日(訴状送達の翌日)から、右弁護士費用六〇万円に対する判決言渡の日の翌日である昭和五〇年三月五日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において、原告近藤については、七六万八、三八七円及びうち弁護士費用を除く六九万八、三八七円に対する損害発生後である昭和四六年六月一〇日から、右弁護士費用七万円に対する判決言渡の日の翌日である昭和五〇年三月五日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で、それぞれ理由があるから認容することとし、その余の原告らの請求は失当であるから棄却することとする。

訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、各適用。

(裁判官 伊藤豊治 浦野信一郎 澤田英雄)

(別紙) 当事者の主張

原告合田虎市(以下「原告合田」という)

同近藤ユキ(以下「原告近藤」という)

被告藤原敬二

(請求原因)

(請求原因に対する答弁)

一 事故の発生

原告らは、次の交通事故(以下「本件事故」という)によつて、負傷した。

1 発生時 昭和四三年五月六日午後九時一〇分ころ

2 発生場所 香川県大川郡白鳥町湊川、湊川大橋東詰国道一一号線上の交差点

3 加害車両 普通乗用自動車(徳五せ四一―六六)

運転者 被告

4 被害車両 軽四輪貨物自動車(六香ふ九一〇九)

運転者 原告合田(明治四二年三月五日生、当時五九年)

同乗者 原告近藤(大正八年二月一九日生、当時四七年)

5 態様 前記場所を東進中の加害車両が、中央区分線を超えて被害車両進行車線内に進入し、対向西進中の被害車両右前部に衝突

一 原告ら主張の本件事故の発生の事実はすべて認める。

二 責任原因

被告は加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、本件事故による原告らの傷害によつて生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

二 被告が運行供用者として、本件事故による損害を賠償する義務あることを認める。

三 負傷の部位、程度、後遺症状

原告らは本件事故により、次のとおり負傷し、その結果現在も後遺症が残つている。

1 原告合田

(一) 負傷の部位・程度

右膝関節化膿性関節炎、大腿骨・下腿骨骨髄炎、右股関節脱臼等

(二) 後遺症状

右股関節骨性強直(外旋四五度、外転二〇度、屈伸零度)、右膝関節骨性強直(屈曲一六〇度)等により、身体障害者福祉法施行規則別表五号身体障害程度等級表三級に該当

2 原告近藤

(一) 負傷の部位・程度

頭部外傷、右手打僕傷、右膝部擦過傷、鞭打症等

(二) 後遺症状

神経系統の機能障害により、自賠法施行令別表九級に該当

三 本件事故により原告らが、その主張のような傷害を受け、現在後遺症状が存することは知らない。

仮に原告らにその主張のような負傷、後遺症状があるとしても、原告らの負傷内容・後遺症状と本件事故との間には、因果関係は存しない。

四 損害

原告らは、本件事故による傷害により次の損害を破つた。

四 原告ら主張の損害は争う。その詳細は次のとおりである。

1 原告合田(明細は、別紙計算書(一)記載のとおりである。)

1

(一) 治療関係費(治療費、入・通院雑費、入・通院交通費、付添費等)六七〇万一、六五五円

(一) 争う。

(二) 休業による損害(43・5・6~48・12・5)五〇二万五、〇〇〇円

(二) 争う。

(三) 労働能力喪失(79%)による損害 四一七万六、四一四円

(三) 争う。

(四) 慰藉料 三五〇万円

(四) 争う。

(五) 損害の填補

原告合田は、被告及び自賠費保険金から、次の金額を受領しているので、損害賠償請求額から控除する。

(1) 治療費 一三三万六、四五六円(43・5・6~43・8・10―五三万六四五六円、43・8・11~45・8―八〇万円)

(2) 慰藉料及び休業損害 八五万円

(3) 自賠責後遺障害保険金 一八〇万円(第一回目は八級該当として一一〇万円、第二回目は五級該当に変更され更に、七〇万円)

(五) 原告合田が、被告及び自賠費保険金から、主張のような金額を受領したことは認める。

(六) 弁護士費用 八〇万円

原告合田は、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、着手金として二〇万円を支払つた外、成功報酬として六〇万円を支払う旨約した。原告合田の負担した右弁護士費用は、本件事故による損害である。

(六) 原告合田が、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任したことは認める。その余の事実は知らない。

2 原告近藤(明細は別紙計算書(二)のとおりである。)

2

(一) 治療関係費(治療費、入・通院雑費、通院交通費)八八万三、一九九円

(一) 争う。

(二) 休業による損害(43・5・6~46・4・30)七一万六、五〇〇円

(二) 争う。

(三) 労働能力喪失(35%)による損害 七二万一、五六〇円

(三) 争う。

(四) 慰藉料 一五〇万円

(四) 争う。

(五) 損害の填補

(1) 治療費 四三万五、〇〇〇円(43・9~44・5毎月一万五、〇〇〇円、44・10~45・12毎月二万円)

(2) 慰藉料 一五万円

(3) 休業損害 一五万円

(五) 原告近藤が、被告からその主張のような金額を受領したことは認める。但し被告が原告に対し治療費名義で支払つた額は、四五万円になる。

(六) 弁護士費用

原告近藤は、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任し、着手金として一〇万円を支払つた外、成功報酬として二〇万円を支払う旨約した。原告近藤の負担した右弁護士費用は、本件事故による損害である。

(六) 原告近藤が、原告ら訴訟代理人に本件訴訟の追行を委任したことは認める。その余の事実は知らない。

五 結論

そこで、本件事故による損害賠償として、被告に対し

1 原告合田は、一、六二一万六、六一三円及び内一、一五三万六、三九四円に対する本件事故発生後である昭和四六年六月一〇日(訴状送達の翌日)から、内三八八万〇、二一九円に対する本件事故発生後である昭和四九年二月二〇日(請求拡張申立書送達の翌日)から、残り八〇万円(弁護士費用)に対する判決言渡しの日の翌日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の

2 原告近藤は、三三八万六、二五九円及び三〇八万六、二五九円に対する本件事故発生後である昭和四六年六月一〇日(訴状送達の翌日)から、残り三〇万円(弁護士費用)に対する判決言渡しの日の翌日から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるため本訴に及んだ。

五 原告らの請求は理由がない。

(抗弁に対する答弁)

(抗弁)

一 争う。その詳細は次のとおり。

一 示談

1 本件事故について、原告らと被告との間に、その主張のような示談が成立したことは認める。

1 本件事故について、原告らと被告との間に、それぞれ次のような示談契約が成立している。

(一) 原告合田

(1) 昭和四三年八月一〇日示談成立

(2) 示談の内容

イ 治療費

昭和四三年八月一〇日(示談成立の日)までの分は被告の、その後は原告合田の各負担とする。

ロ 休業損害及び慰藉料

被告は原告合田に八五万円を支払う。

ハ 損害賠償請求権の放棄

原告合田は被告に対するその余の損害賠償請求権を放棄する。

(二) 原告近藤

(1) 昭和四三年七月一日示談成立

(2) 示談の内容

イ 治療費

原告近藤が完治するまで、被告が負担する。

ロ 休業損害及び慰藉料

被告は原告近藤に三〇万円支払う。

2 原告らが、被告主張のころ、主張のような金額を受領したことは認める。その余の事実は争う。示談契約は後記再抗弁主張のとおり無効であるから、原告らの損害賠償請求権は消滅していない。

2 被告は右示談に基づき、次のとおり履行ずみであるから、原告らの有した損害賠償請求権は、示談契約によつて消滅している。

(一) 原告合田

(1) 被告は示談成立後間もなく、前記約定((一)、(2)、イ)に基づき、昭和四三年五月六日から同年八月一〇日までの間の治療費五三万六、四五六円を、原告合田に支払つた。

(2) 被告は、右示談成立後間もなく、前記約定((一)、(2)、ロ)に基づき、八五万円を原告合田に支払つた。

(二) 原告近藤

(1) 被告は、右示談成立のころ、前記約定((二)、(2)、ロ)に基づき、三〇万円を原告近藤に支払つた。

(2) 原告近藤の症状は、遅くとも昭和四五年一二月末日までに完治した。

そして、被告は前記約定((二)、(2)、イ)に基づき、同日までの治療費として四五万円を、同日までに原告近藤に支払つた。

二 原告近藤が被告主張のような金額を受領していることは認める。

二 原告近藤に対する一部弁済

仮に、被告の原告近藤に対する損害賠償義務が、前記示談契約によつても消滅せず、なお残存する部分があるとしても、前記のとおり原告近藤に治療費名義で支払つた金額は四五万円であるから、損害の填補として、同原告主張の四三万五、〇〇〇円の外さらに一万五、〇〇〇円を控除すべきである。

三 被告の過失相殺の主張は、否認する。本件事故は被告の一方的過失によつて発生したものであり、原告合田には何らの過失もない。

三 過失相殺

仮に右一の抗弁が認められないとしても、本件事故の発生には原告合田の過失も寄与しているから、原告側の過失として、原告らの損害額算定については、これを斟酌すべきである。

(再抗弁―示談の無効)

(再抗弁に対する答弁)

一 錯誤による無効

原告らは、被告と示談契約を締結した当時、傷害も殆んど治癒し、退院も間近いものと誤信し、これらの点については何らの争いもなく、傷害の程度も固定したことを前提として、示談契約に応じたものである。

しかしながら、事実はこれに反し、その後原告らには請求原因第三項記載のような後遺症状が生じているから、原告らの意思表示には重要な部分に錯誤があり、本件示談契約は民法九五条によつて無効である。

一 本件示談契約が錯誤によつて無効であるとの原告らの主張は否認する。そもそも、原告ら主張の後遺症状と本件事故との間には、因果関係が存在しない。

仮に因果関係があるとしても、原告ら主張のような後遺症状は、本件示談当時十分に予想しており、あるいは予測しえたものである。(況んや、原告合田は、賠償請求権放棄の特約までしているのである。)

いずれにしても、示談契約の拘束力によつて、原告らの主張は理由がない。

二 解除条件の成就

仮に右主張が認められないとしても、本件示談契約は賠償の対象たる損害の状況が、その当時明らかで、かつそれが当時の見通しのとおりに推移することを暗黙の前提とし、将来その損害について、その当時、当事者の確認しえなかつた著しい増加、変容その他事態の変化が生じた場合には、右契約はかような事由を原因として解消せしめる趣旨の暗黙の条件、すなわち解除条件が付せられていたものであり、原告らの傷害は示談成立当時に比べて著しく悪化し、損害額も大幅に増加したから、右契約は解除条件の成就により当然失効した。

(以上)

二 本件示談契約が解除条件の成就によつて失効したとの原告らの主張は否認する。その余については、前項主張のとおりである。

(以上)

(別紙) 計算書

(一)

1 治療関係費(下記(1)ないし(10)の合計金額6,716,455円の内) 6,701,655円

(1) 宇田外科医院(43.5.6) 25,000円

(イ) 治療費 20,000円

(ロ) 転送料 5,000円

(2) 三宅病院(43.5.6~44.8.12) 1,707,876円

(イ) 治療費 837,226円

(ロ) 付添看護費(含食事代) 493,300円

(付添期間235日、付添費1日当り1,800円、食事代1日当り900円)

(ハ) 通院交通費(タクシー利用) 37,000円

(ニ) 入院雑費 196,650円

(ホ) 通院雑費 143,500円

(3) 岡山大学医学部附属病院(44.8.13) 12,600円

治療費及び交通費 12,600円

(4) 広瀬整形外科医院(44.8.14~44.11.27) 500,539円

(イ) 治療費 196,759円

(ロ) 付添看護費(含食事代) 222,600円

(付添期間106日、付添費1日当り1,800円、食事代1日当り900円)

(ハ) 入院雑費 81,180円

(5) 高松赤十字病院(44.11.27~45.1.6) 203,462円

(イ) 治療費 91,787円

(ロ) 付添看護費(含食事代) 86,100円

(付添期間41日、付添費1日当り1,800円、食事代1日当り300円)

(ハ) 入院雑費 25,575円

(6) マオカ整形外科医院(45.1.6~45.11.4) 1,198,585円

(イ) 治療費 501,565円

(ロ) 付添看護費(含食事代) 497,700円

(付添期間237日、付添費1日当り1,800円、食事件1日当り300円)

(ハ) 通院交通費(タクシー利用) 10,600円

(ニ) 入院雑費 156,720円

(ホ) 通院雑費 32,000円

(7) 大阪市立大学医学部附属病院 973,374円

(イ) 治療費(45.11.5~46.1.30) 589,424円

(ロ) 付添看護費(含食事代) 243,600円

(付添期間116日―45.11.5~46.2.28、付添費1日当り1,800円、食事代1日当り300円)

(ハ) 入院雑費 133,350円

(ニ) 入院交通費 7,000円

(航空機・タクシー利用、付添人1名分の航空運賃を含む)

(8) 同病院 1,705,610円

(イ) 治療費(46.2.1~46.8.31) 1,069,610円

(ロ) 付添看護費(含食事代) 572,400円

(付添期間212日、付添費1日当り1,800円、食事代1日当り900円)

(ハ) 入院雑費 63,600円

(入院期間212日、1日当り300円)

(9) 同病院(46.9~47.9) 192,400円

(イ) 治療費 65,000円

(通院日数13日、1日当りの治療費5,000円)

(ロ) 通院交通費 127,400円

(タクシー・航空機利用、1日9,800円)

(10) 高松市民病院(46.9~47.9) 197,009円

(イ) 治療費 113,609円

(ロ) 通院交通費 55,600円

(通院期間139日、1日当り400円)

(ハ) 通院雑費 27,800円

(通院期間139日、1日当り200円)

2 休業による損害(43.5.6~48.12.5) 5,025,000円

(露天商として1日平均3,000円の収入、毎月25日以上稼働、67ケ月間休業)算式 (3,000×25)×67=5,025,000

3 労働能力喪失による損害(48.12.6以降) 4,176,414円

(本件事故当時59才、後遺障害による労働能力喪失率79%、就労可能年数6.2年、中間利息年5分控除、ホフマン係数5.874)算式〔{(3,000×25)×12}×0.79〕×5.874=4,176.414(小数点以下切捨)

4 慰藉料 3,500,000円

(本件事故によつて長期間の入・通院をよぎなくされたうえ、前記のような後遺症状によつて片肢の機能は全廃してしまつており、甚大な精神的苦痛を被つている。このような事情のもとでは、その精神的損害は350万円と評価するのが相当である。)

5 損害の填補 3,986,456円

(1) 治療費 1,336,456円

(2) 慰藉料 850,000円

(3) 自賠責後遺障害保険金 1,800,000円

6 弁護士費用 800,000円

(1) 着手金 200,000円

(2) 成功報酬 600,000円

7 まとめ 16,216,613円

(1) 〔1+2+3+4〕 19,403,069円

算式 6,701,655+5,025,000+4,176,414+3,500,000=19,403,069

(2) 〔(1)-5〕 15,416,613円

算式 19,403,069-3,986,456=15,416,613

(3) 〔(2)+6〕 16,216,613円

算式 15,416,613+800,000=16,216,613

(以上)

(二)

1 治療関係費 883,199円

(1) 三宅病院(43.5.7~44.4.2) 503,748円

(イ) 治療費(43.5.7~43.7.22―入院中の分) 335,680円

(ロ) 同(43.7.23~44.4.2―通院中の分) 54,768円

(ハ) 入院雑費 6,300円

(43.7.2~43.7.22―21日間、1日当り300円)

(ニ) 通院雑費 42,800円

(43.7.23~44.4.2―214日間、1日当り200円)

(ホ) 通院交通費 64,200円

(タクシー利用、1日当り300円、214日分)

(2) 伊達病院(44.4.10~45.1.8) 104,133円

(イ) 治療費 29,133円

(ロ) 通院交通費 45,000円

(タクシー利用、1日当り300円、150日間通院)

(ハ) 通院雑費 30,000円

(1日当り200円、150日分)

(3) マオカ整形外科医院(45.1.12~45.9.7) 93,271円

(イ) 治療費 26,671円

(ロ) 通院交通費 36,600円

(タクシー利用、1日当り300円、122日間通院)

(ハ) 通院雑費 30,000円

(1日当り200円、150日分)

(4) 高松第一病院(45.9.9~45.11.12) 100,919円

(イ) 治療費(45.9.9) 2,002円

(ロ) 同(45.9.11~45.11.12) 79,517円

(ハ) 入院雑費 18,900円

(63日間入院、1日当り300円)

(ニ) 通院交通費(タクシー利用) 300円

(ホ) 通院雑費 200円

(5) 大阪市立大学医学部附属病院(45.12.24~46.4.30) 81,128円

(イ) 治療費(45.12.26~46.3.10) 44,128円

(ロ) 同(46.3.11~46.4.30) 30,000円

(ハ) 通院交通費 4,200円

(タクシー利用、14日間通院、1日当り300円)

(ニ) 通院雑費 2,800円

(1日当り200円、14日分)

2 休業による損害(43.5.6~46.4.30) 716,500円

(和裁縫師として1ケ月平均20,000円を下らない収入、35ケ月25日間休業)

算式 20,000×(35+25/30)=716,500

3 労働能力喪失による損害(46.5.1以降) 721,560円

(本件事故当時49才、後遺障害による労働能力喪失率35%、就労可能年数11年、中間利息控除年5分、ホフマン係数8.590)

算式 {(20,000×12)×0.35}×8.590=721.560(小数点以下切捨)

4 慰藉料 1,500,000円

(本件事故により、長期間の入・通院をよぎなくされたうえ、前記のような後遺症状によつて甚大な精神的苦痛を被つており、その精神的損害は150万円と評価するのが相当である。)

5 損害の填補 735,000円

(1) 治療費 435,000円

(2) 休業損害 150,000円

(3) 慰藉料 150,000円

6 弁護士費用 300,000円

(1) 着手金 100,000円

(2) 成功報酬 200,000円

7 まとめ 3,386,259円

(1) 〔1+2+3+4〕 3,821,259円

算式 883,199+716,500+721,560+1,500,000=3,821,259

(2) 〔(1)-5〕 3,086,259円

算式 3,821,259-735,000=3,086,259

(3) 〔(2)+6〕 3,386,259円

算式 3,086,259+300,000=3,386,259

(以上)

(三)

1 治療費 2,077,580円

(1) 三宅病院 280,893円

(43.5.6~44.8.12迄の入・通院治療費837,226円、解決ずみの分556,333円)

算式 837,226-556,333=280,893

(2) 岡山大学医学部附属病院 4,554円

(3) 広瀬整形外科医院 196,759円

(4) 高松赤十字病院 91,787円

(5) マオカ整形外科病院 501,565円

(6) 大阪市立大学医学部附属病院 891,415円

(入院治療費1,777,592円、国民健康保険適用外の上級ベツト使用料509,700円 弾力包帯代640円を含む、国民健康保険適用分の治療費は7割が保険者負担、通院治療費900円)

算式 (509,700+640)+{〔1,777,592-(509,700+640)〕×0.3}+900=891,415

(7) 高松市民病院 110,617円

2 付添看護費 801,000円

(1) 三宅病院 117,000円

(1日当り1,000円、117日分)

(2) 広瀬整形外科医院 106,000円

(1日当り1,000円、106日分)

(3) 高松赤十字病院 41,000円

(1日当り1,000円、41日分)

(4) マオカ整形外科医院 237,000円

(1日当り1,000円、237日分)

(5) 大阪市立大学医学部附属病院 300,000円

(1日当り1,000円、300日分)

3 入院雑費 160,200円

(1) 三宅病院 23,400円

(1日当り200円、117日分)

(2) 広瀬整形外科病院 21,200円

(1日当り200円、106日分)

(3) 高松赤十字病院 8,200円

(1日当り200円、41日分)

(4) マオカ整形外科医院 47,400円

(1日当り200円、237日分)

(5) 大阪市立大学医学部附属病院 60,000円

(1日当り200円、300日分)

4 入・通院交通費 143,456円

(1) 三宅病院 30,200円

〔1日当り200円、146日分(176-30=146)〕

(2) 岡山大学医学部附属病院 8,056円

(3) マオカ整形外科医院 9,000円

(1日当り200円、45日分)

(4) 大阪市立大学医学部附属病院 70,000円

(1日当り7,000円、入・通院10日分)

(5) 高松市民病院 26,200円

(1日当り200円、131日分)

5 休業損害 2910,966円

〔1ケ月60,000円の収入、ホフマン係数60ケ月(43.5.6~48.4.末)53.4545、同係数5ケ月(43.5.6~43.9.末)4.9384〕

算式 60,000×(53.4545-4.9384)=2,910,966

6 労働能力喪失による損害 1,572,861円

〔1ケ月60,000円の収入、就労可能年数5年(48.5.6以降)、労働能力喪失率60%ホフマン係数120ケ月(43.5.6~53.4.末)97.1451、同係数60ケ月(43.5.6~48.4.末)53.4545〕

算式 60,000×0.6×(97.1451-53.4545)=1,572,861

7 慰藉料 2,000,000円

8 控除(損害の填補) 2,600,000円

(治療費800,000円、後遺障害保険金1,800,000円)

9 弁護士費用 600,000円

10 まとめ 7,666,063円

(1) 治療費 2,077,580円

(2) 付添看護費 801,000円

(3) 入院雑費 160,200円

(4) 入・通院交通費 143,456円

(5) 休業損害 2,910,966円

(6) 労働能力喪失による損害 1,572,861円

(7) 慰藉料 2,000,000円

(8) 控除 2,600,000円

(9) 弁護士費用 600,000円

(10) 合計〔(1)+(2)+(3)+(4)+(5)+(6)+(7)+(8)+(9)〕 7,666,063円

(以上)

(四)

1 治療費 209,547円

(1) 三宅病院 54,768円

(入院分335,680円、通院分54,763円。うち入院分は被告が支払ずみ。)

(2) 伊達病院 29,133円

(3) 高松第一病院 81,519円

(4) 大阪市立大学医学部附属病院 44,127円

2 入院雑費 16,800円

(1) 三宅病院 4,200円

(1日当り200円、入院日数75日のうち、請求の21日分)

(2) 高松第一病院 12,600円

(1日当り200円、63日分)

3 入・通院交通費 14,800円

(1) 三宅病院 12,400円

(1日当り200円、62日分)

(2) 高松第一病院 200円

(1日当り200円、1日分)

(3) 大阪市立大学医学部付属病院 2,200円

(1日当り200円、11日分)

4 休業損害及び労働能力喪失による損害 507,240円

(1) 休業損害 380,576円

〔1ケ月20,000円の収入、休業期間21ケ月(44.7.1~46.3.末)、ホフマン係数35ケ月(43.5.6~46.3.末)32.6081、同係数14ケ月(43.5.6~44.6.3)13.5793〕

算式 20,000×(32.6081-13.5793)=380,576

(2) 労働能力喪失による損害 126,664円

〔1ケ月20,000円の収入、労働能力喪失期間66ケ月(46.4.1~51.9.末)、労働能力喪失率14%の期間36ケ月(46.4.1~49.3.末)、同率10%の期間30ケ月(49.4.1~51.9.末)、ホフマン係数101ケ月(43.5.6~51.9.末)84.1505、同係数71ケ月(43.5.6~49.3.末)62.0829、同係数35ケ月(43.5.6~46.3.末)32.6081〕

算式 20,000×〔{(62.0829-32.6081)×0.14}+{(84.1505-62.0829)×0.1}〕=126,664(小数点以下切捨)

5 慰藉料 400,000円

6 損害の填補 450,000円

7 弁護士費用 70,000円

8 まとめ

(1) 治療費 209,547円

(2) 入院雑費 16,800円

(3) 入・通院交通費 14,800円

(4) 休業損害及び労働能力喪失による損害 507,240円

(5) 慰藉料 400,000円

(6) 損害の填補 450,000円

(7) 弁護士費用 70,000円

(8) 合計 {(1)+(2)+(3)+(4)+(5)+(6)+(7)} 768,387円

(以上)

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